2006年08月03日

鏡の見る夢

テントの中に人影はない
珍しく、鏡のカバーが外されている
映る景色は目の前のものではなく

そこは舞台
聞こえてくる語り手の声
それは、誰かの夢の中


 
   
 
 
次第に鮮明になるシルエット。


扉がある。
鉄でできた、頑丈な扉。覗き窓も無い。
内側から鍵をかけられるつくりのようだ。
薄明かりの中ぼんやりと、小さな出入り口を塞ぎ佇んでいる。
いつまでも、いつまでも、扉は開く事がない。
遠くから何かが聞こえてくる。
爆発と、金属を強く打ちつけあったような硬い響き、そして悲鳴。
扉は開く事がない。
いつまでも、いつまでも、それはどこか遠くの出来事。


(暗転)


道化師が踊っている。
暗闇の中、照明に照らされ、奇抜な色の衣装で、
ちょこまかとせわしない動きを繰り返す。
大きな涙型の化粧が特徴的な顔は、くるくると表情をかえて、
明るい音楽の中、一人。

歌は恋のときめきを、そして愛の幸せをうたい、
食の喜びをうたい、人生の豊かさをうたう。
音と光の交差の中を、
笑いと拍手の響く中を、道化師は一人。

音楽が消え、歌が終り、
拍手が止み、人の気配が遠ざかって、
照明さえ落ちた後も。
道化師は踊りをやめない。
たった一人、踊り続ける。

誰のものか定かではない、小さな呟き声が聞こえる。


「誰も止めて良いよって、言ってくれなかったから」




(暗転)


鏡は、テントの内部を映している


 
posted by (流星) at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 波の向こうで | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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